⑤ クリシュナと堕天使

 

■インドにおける英雄クリシュナ
クリシュナという神はインドにおいて最も人気のある神だといわれ、現代でもその名や異名を自らの名前にするインド人は多数いるといわれる。その生涯を物語化したり映画化したりすることは今でも頻繁にあるそうで、インドにおいては「英雄(ヒーロー)」というべき存在であるようだ。
KRISHNAは「黒=BLACK」という意味で、よってアーリア人が来る以前から居住していた色の黒い人々の神であった。一般的にヤーダヴァ族という部族の首長であった実在の人物が神格化したものだとされる。別名が「ダーサ=奴隷」であることからも、土着の人々の神であったという見解で一致していて、当然ともいえるが「大蛇を退治する神話」も持っている。古代にバクティという神への献身的な愛を説いた指導者だった人物がやがて神と同一視されるようになった、ともいわれる。
有名な「マハーバーラタ」でバガヴァット・ギーターをアルジュナ王子に説くクリシュナの姿はよく知られており、キリスト教の世界でも有名なようである。インド神話におけるクリシュナは「美男子で女性の憧れで強くて聡明で愛に溢れた」神であり、文字通り英雄(ヒーロー)的な神だといえる。

■クリシュナとその影響
クリシュナは太陽神であり、ヴィシュヌの化身の一人である。ヴィシュヌはその化身としてラーマと特にクリシュナを取り込んだことによりその存在が現在のように巨大になったといわれ、「ハリハラ」という言葉がありハリ=ヴィシュヌ、ハラ=シヴァであるが、ハリ=クリシュナでもある。つまりヴィシュヌは土着系の二大神を取り込んで巨大な存在になり、尚且つ太陽神であるから、土着系の人々=太陽信仰であるといえる。
ちなみに辻直四郎は「ヴェーダに書かれているハリ・ユーピヤーがインダス遺跡のハラッパーではないか」と述べたそうだが、ハリとハラは全く異なるのになぜこのようなことを言うのか不思議である。
相当昔から言われていることらしいが、「KRISHNA」という語は「CHRIST」の語源ではないか、という説がある。理由としてはクリシュナの生涯がダビデの生涯と(ストーリー上)似ていること、前者は牛飼い後者は羊飼い、それとバガヴァットを説くことなどで、もちろん「クリシュナ」と「クライスト」の発音が似ていることなどもある。イエスの教えとクリシュナのバクティの詳細な比較については私は知らない。
クリシュナとダビデの生涯が似ていることについては、イスラエルからインドの方向つまりダビデの神話がクリシュナの神話に伝播したのだろうというのが定説らしく、インド人でさえそう唱えるそうである。しかし時代などを考慮してもインドからイスラエルに伝播したと考えるのが自然であり、なぜ逆の考え方が定説なのかといえば、要するに聖書の存在には誰も逆らえないということだろう。もっといえばユダヤ人の最大の英雄が実際には他文化の影響による「創作」であったとしたら、もはやイエスの存在そのものに関わる。メシア思想というのは「ダビデの再来を待ち望む」というのが基本であり、その人物がそもそも架空なのであれば、根底から成り立たないからだ。

■クリシュナとクル族
クリシュナが「マハーバーラタ」においてバガヴァットを説くのは有名であるが、以前の文章で述べたように、クリシュナとクル族は同じ側の存在ではない。クリシュナは明確に太陽神であり、クル族は月信仰の代表である。ではなぜマハーバーラタに彼が登場するのかだが、例えばそれが書かれた当時にあまりに偉大な存在であったためその威光を欲して登場させたとか、それを書いた当事者が自らを逆の側の存在だと偽るために登場させたとか、いろいろ考えられるがよくわからない。クル族は月信仰側の存在であるが、アーリア人だったのか土着系の人々だったのかもはっきり判断し難い。
聖書における最初の人であるアダムは「土」という意味だが、土の色は何色なのか。KRISHNAは「黒」という意味だが、以前の文章で述べたようにインドラとシヴァは茶色である。第二次大戦前のドイツにあったオカルト団体のうち有力なものに神智学協会というのがあったが、彼らの主張の一つに「旧約聖書におけるアブラムがアブラハムと改名した理由は『ABRAHAM=A_BRAHMA』であり、つまり反バラモンということである」というのがあった。ナチズムは盛んにアーリア人という言葉を喧伝したが、バラモン教というのは「アーリア人至上主義」であり、ナチズム同様「自分たちだけが人間だ」という選民思想的なものだとの説がある。ヘブライ人は反バラモンであるとの理屈により、ユダヤ人はアーリア人の敵なのだという主張の論拠の一つになったのが、このオカルト団体の主張であった。言うまでもなくイランという国名はアーリアンという語に由来する。
本来土の色は黒いはずであるが、茶色であると偽りの認識を人々に浸透させている者たちがいるのだろうか。「クル」と「黒」は発音上は似ており、日本に漢字が渡来したのは仏教と一緒にである(はずだ)から、クル族が自らを「黒い者」と名乗って(偽って?)いたとしたら、日本でもそれに関連するものには黒という漢字が付くかもしれない。
カフカズ地方のグルジアという国はキリスト教国であるにもかかわらず、その国旗に「三日月のマーク」をずっと使っていた。またその西側には黒海がある。グルジアの語源はともかく、昔西域に「弓月城」という国があってクルジア(クルジャ)と呼ばれており、弓月=三日月である。弓月君が秦氏と関連があるのは非常に有名である。また以前の文章で述べたように、インドの九耀のシャニは土星だが、土星はイスラエルの守護星とかイスラエルの第二の太陽とか呼ばれるそうである。土=アダムなので、熱烈なクリシュナ崇拝者のシャニが土星なら、やはり土の色は黒くないとおかしい。
クル族がアーリア人なのか土着系の人々なのかは釈然としないが、「KR」と「CR」は明確に違うはずである。自らの存在を偽るために逆の主張をすることはいつの時代でもある。

■堕天した者たち
「インドに来たのか、インドから出て行ったのか」というのは非常に難しい問題であるが、確かに定説通り「インドに来た」と考えないと説明出来ないこともあるし、逆に「インドから出て行った」と考えないと説明出来ないこともある。もし後者の通り「インドが文明のスタートでそこから皆出て行った」と考えるならば、エデンがインドにあったということになる。これを前提として考えてみたい。
もしエデンがインドにあったのなら、そこには当然土着の人々しかいなかったはずであり、つまり色の黒い人々がそこで暮らしていた。ゆえにアダム=土の色は黒い。九耀のシャニの如くクリシュナを崇拝する者が大勢おり、クリシュナがヤーダヴァ族の長であり指導者であったわけだから、ヤーダヴァ族がエデンを統治する一族であった。しかしそこから離れる者が出る。神の最も傍にいた者(たち)がそこを離れ、違う場所へ行く。それはすぐ北西の土地だったかもしれないが、つまり「堕天」である。堕天使は悪魔となり神の障碍になる。「ヤーダヴァ」という言葉は「YADAVA」と書くが、もしこれを「YAHDAWAH」と書き、堕天した者たちの象徴である例えば「鳩=DOVE」がそこから抜ければどうなるか。母音は不要なので「YHDWH」から「DV」を抜くと「YHWH」が残る。
「赤い鳩」というのが何を意味するのか私は知らないが、もしこれが事実なら、エデンの指導者たちだったグループから離脱して堕天したのがサタンだろう。

■[補足]
アダム=土の色は黒いが、エデンで暮らしていたのは色の黒い人々だけではなかったかもしれない。正確にはいろいろな色の人々が暮らしていて、指導者たちのグループにもいろいろな色の人たちがいた。指導者たちの長であったクリシュナはもちろん色が黒かったが、つまり簡単に言えば「歴史時代とは逆」に、色の黒い者が色の白い者(たち)を指導していた。そこを離脱した色の白い者たちが色の黒い者たちに戦いを起こした、ということかもしれない。
「カースト」という語はポルトガル語の「カスタ」が語源であり、カースト制度はインドで元々「ヴァルナ=色」と呼ばれていた。「バラモンは白く、クシャトリヤは赤く、ヴァイシャは黄色く、シュードラは黒い」という言葉通り、元々肌の色つまり人種でその階層が決まっていた、というのが定説である。かつて「黄禍論」というのがあったが、ヴァイシャは黄色くまたユダヤ人も黄色いし、言うまでもなく日本人も黄色い。白と茶色を混ぜると黄色になるのは示唆的である。現在は白色人種・黄色人種・黒色人種はいても赤色人種というのはいないので、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
歴史時代においては色が白いほど偉く色が黒いほど卑しいというのが世界のスタンダードだが、かつて自分たちを指導していた「黒」を意味する者への嫉妬とルサンチマンから、色の白い者たちは色の黒い者たちに復讐すべく歴史を動かし、同時に自らを逆の立場の存在だと偽ってきたのかもしれない。現在本当に黒い者たちは人類の範疇外に置かれ、それを打開しようにもマトリックスが頑丈すぎて人々はそれを壊そうという発想すら無い。「黒」という色にマイナスのイメージを普遍的に植え付けた方法は、万能足り得ない科学の力によるものではないだろう。

(2008/10/11)